序 特定健康診査等実施計画の策定に当たって

1 特定健康診査等実施計画策定の趣旨

 平成18年6月、医療制度構造改革関連法案が成立し、平成20年度から施行された高齢者の医療の確保に関する法律(以下「法」という。)により、医療保険者に対して、糖尿病等の生活習慣病の有病者・予備群の減少を目的に、40歳から74歳の加入者(以下「対象者」という。)を対象に内臓脂肪症候群(以下「メタボリックシンドローム」という。)に着目した健康診査(以下「特定健康診査」という。)及び当該診査の結果に基づく保健指導(以下「特定保健指導」という。)の実施が義務づけられた。
 この改革は、糖尿病有病者・予備群の増加、肥満者の増加など国民の健康状態や生活習慣の改善が見られない、若しくは悪化している現状、さらに、健康診査後の保健指導の対象者、内容が、事業主及び市町村等の実施主体ごとにむらがあり一貫していない現状にかんがみ、実施主体を医療保険者にすることで、組合員のみならず被扶養者に対しても、特定健康診査の受診及び十分な特定保健指導を実行し、将来の医療費の抑制を図るものである。
 そのため、地方公務員等共済組合法(以下「地共法」という。)第112条の2においても特定健康診査及び特定保健指導(以下「特定健診等」という。)を行うものと規定された。
 このように、医療保険者である警察共済組合(以下「組合」という。)は、厚生労働大臣が定める特定健康診査等基本指針(以下「基本指針」という。)に即して、法第19条の規定に基づく特定健康診査等実施計画(以下「実施計画」という。)を策定することが義務づけられ、これに従って、対象者に対して特定健診等を実施するものとされた。一方、組合は、従来から地共法に基づき各種保健福祉事業を展開しており、とりわけ生活習慣病に関しては、警察共済組合保健事業実施規程(平成16年警察共済組合規程第15号)に基づき、一次予防(生活習慣を改善して健康を増進し生活習慣病等の発病を予防すること。)を志向した保健事業を推進していることから、これまでの保健事業との調和を図りながら、効率的かつ効果的な特定健診等の実施に向けて、当該実施に係る方法及び目標等の基本的事項について、この実施計画を定めるものとする。


2 メタボリックシンドロームに着目する意義

 メタボリックシンドロームの共通する病態要因は、血糖高値、脂質異常症、血圧高値であり、それぞれが重複した場合は、虚血性心疾患、脳血管疾患等の発症リスクが高く、内臓脂肪を減少させることでそれらの発症リスクの低減が図られるという考え方を基本としている。
 すなわち、内臓脂肪の蓄積に起因する糖尿病、脂質異常症、高血圧症は生活習慣の改善により予防可能であり、また、発症してしまった後でも、LDL コレステロールと同時に血糖、血圧等をコントロールすることにより、心筋梗塞等の虚血性心疾患、脳梗塞等の脳血管疾患、人工透析を必要とする腎不全等への進展や重症化を予防することは可能であるとされている。
 メタボリックシンドロームに着目するのは、内臓脂肪を減少させることによってそれらの発症リスクの低減が図られるという考え方に基づくものである。


3 特定健診等の基本的な考え方

特定健診等の基本的な考え方は、以下のとおりとなる。

 特定健康診査は、生活習慣病の発症や重症化を予防するために、メタボリックシンドローム該当者及び予備群を減少させるための特定保健指導を必要とする者を的確に抽出するために行うものである。
 また、特定保健指導は、対象者が自らの生活習慣における課題を認識し、行動変容と自己管理を行い、健康的な生活を維持することができるようになることを通じて、生活習慣病の発症や重症化を予防するために行うものである。
 これらは、事業主と連携を図りながら組合が定める目標達成に向けて実施する。


4 実施計画の期間

 実施計画は6年を一期とし、策定する。第1期及び第2期は5年を1期としていたが、医療費適正化計画が6年1期に見直されたことを踏まえ、第3期からは6年を1期として策定する。ただし、期間中であっても、必要に応じて見直すことを妨げないものとする。


5 組合員及び被扶養者の疾病の現状

 平成28年度の組合員の疾病の現状を医療費の上位10位までで見ると下表1~2のとおりとなる。
 これは「保健医療システム」の医療費分析機能を活用したものであるが、40歳以上74歳以下の者に関するものを抽出することができないため、全年代におけるものとした。
 なお、組合員及び被扶養者の40歳代から60歳代の各年代の外来及び入院等の医療費割合については、別添の資料を参照されたい。

【表1】
順位 組合員疾病名(医療費割合) 被扶養者疾病名(医療費割合)
1 歯の疾患(15.8%) 歯の疾患(13.0%)
2 悪性新生物(9.3%) 肺炎、気管支炎等(7.5%)
3 関節、脊椎、骨密度障害等(6.6%) かぜ等(6.0%)
4 胆石、膵炎他(5.3%) 悪性新生物(5.7%)
5 高血圧性疾患(4.7%) 周産期に発生した病態(5.6%)
6 骨折、損傷等(4.5%) 骨折、損傷等(4.6%)
7 循環器系の疾患その他(4.2%) 皮膚系疾患(4.5%)
8 糖尿病(4.0%) 関節、脊椎、骨密度障害等(4.5%)
9 肺炎、気管支炎等(3.8%) 妊娠、分娩及び産じょく(4.0%)
10 高脂血症、甲状腺障害(3.7%) 先天奇形等(4.0%)
 ※網かけしている疾病名はメタボリックシンドローム要因疾患

 組合員については、医療費上位10疾病のうち「高血圧性疾患」、「糖尿病」、「高脂血症、甲状腺障害」の3疾病はメタボリックシンドローム要因疾患であり、その医療費が12.4%を占めている(表1)。
 組合員の医療費について、さらに外来と入院とに区別したものが表2である。
 外来医療費では、医療費上位10疾病のうち3疾病がメタボリックシンドローム要因疾患であり、外来医療費の16.7%を占めている。
 また、入院医療費では、2疾病がメタボリックシンドローム要因疾患であり、入院医療費の12.4%となっている。

【表2】 組合員(外来・入院)
順位 外来疾病名(医療費割合) 入院疾病名(医療費割合)
1 歯の疾患(22.7%) 悪性新生物(18.1%)
2 高血圧性疾患(6.7%) 循環器系の疾患その他(9.9%)
3 関節、脊椎、骨密度障害等(5.6%) 胆石、膵炎他(9.3%)
4 悪性新生物(5.4%) 関節、脊椎、骨密度障害等(8.7%)
5 高脂血症、甲状腺障害(5.0%) 骨折、損傷等(8.3%)
6 糖尿病(5.0%) 脳血管疾患(6.3%)
7 眼の疾患(白内障は除く)(4.0%) 虚血性心疾患(6.1%)
8 肺炎、気管支炎等(3.8%) 良性新生物(4.5%)
9 胆石、膵炎他(3.5%) 肺炎、気管支炎等(3.9%)
10 皮膚系疾患(3.4%) 妊娠、分娩及び産じょく(3.9%)

 ※網かけしている疾病名はメタボリックシンドローム要因疾患

 以上のとおり、組合員のメタボリックシンドローム要因疾患による医療費の占める割合が高い傾向にあることから、組合員に対して特定健診等を重点的に実施していく必要性があると考えられる。
 なお、被扶養者についても40歳代以上の年代別に分類すると、メタボリックシンドローム要因疾患による医療費の占める割合は高くなっている。(資料参照